2006年05月19日

学問から解き放たれる権力(2)/青木

(前回から引き続いて、前田雅英氏の刑法理論を論じています。)

前田氏は、検事や裁判官に現在よりも強い権限を求める一方で、憲法判断に関しては司法、たとえば最高裁は「行政の問題、立法の問題は、判断すべきではない」(『刑法から日本をみる』226頁)と回避します。詭弁のようにも聞こえますが、おそらくその理由は、彼が実際には司法を法からではなく、「社会」(かっこつきです。統治の側からイメージされるだけの「社会」です)に向けて考えているからです。前田氏の主張の眼目は、刑法理論の実務化による司法全体の治安効果の強化にあります。「……法解釈を行なう裁判官、検察官、警察官は、まさにこの価値について日々決断しなければならない。法理論の側もそれに対応して、いかなる利益を刑法を用いてまで保護するか、を考えなければならない」(『日本の治安は再生できるか』ちくま新書、2003、183頁)。この主張をさらに拡大していけば、政治の中で司法そのもののあり方を内的に改造することへ向かいます。罪刑法定主義と三権分立に対する彼の見直し論もここから理解しなければなりません。「刑法でも、罪刑法定主義の中身にはいろいろあり得る。一九世紀ヨーロッパ型の三権分立が、今の日本にいいとは思わない。法律をきちっとつくって、それで実務家を縛れば国民主権につながるかというと、嘘だと思う」(『刑法から日本をみる』208頁)。

前田氏は新派刑法学に親近感を抱きつつも、自分の理論を新派と旧派を「止揚」(『刑法から日本をみる』32頁)するものとして提起しますが、ぼくは新派とも旧派ともまったく別物だと考えます。新派刑法学というのは、日本では明治中期頃から発展してきた社会防衛的な刑法理論で、犯罪行為よりも犯罪者の主観に重きを置き、犯罪の社会的原因の除去や刑罰の治療的な効果を目指した理論と言えると思います。今の言葉でいえば、典型的に規律・陶冶 (ディシプリン)型の理論です。新派刑法学が犯罪者の内面の危険性を規定しようとしたとき、その論拠として登場したのが精神医学です。このことは、芹沢一也さんの『<法>から解放される権力』(新曜社)という著作にくわしく論じられています(これはとてもいい本で、確か池田さんも好きだったはず)。ところが、前田氏の刑法理論は社会学や精神医学から刑法を解き放とうとするものです。たとえば、法社会学に関してはこう書かれています。

「一方、法社会学というのは、むしろ民法なら民法、刑法なら刑法、各分野の中に吸収され尽くされちゃったという感じがします。だから、法社会学一般という学問が消えてゆく……。」(『刑法から日本をみる』81頁)

また前田氏は、裁判官が精神鑑定の結果に左右されないこと、したがって精神医学の影響から離れることに意義を認めます。

「ちょっと前の、戦後の科学主義万能の時代は、医者が言うとそれに従う。鑑定というのはすごく重視されたんだけど、それがかなり動いてきた。評価の問題は、ある部分常識でいくんだというふうに変わったというのが、日本の責任能力論の動きですよね。」(『刑法から日本をみる』76頁)

彼はこの文脈から、宮崎勤事件の判決に関しても「……そもそも、医学に全面的に従う必要はない」(77頁)と言い切ります。でも、別の本では「……精神医学分野における『性格異常』の研究の深化は、喫緊の課題である」(『少年犯罪』209頁)とも書いてますが、これは「性格異常」という言葉がはっきり示しているように、法律実務に寄り添った犯罪精神医学へのエールにすぎません。前田氏自身がはっきり言っているわけではないのですが、おそらく彼が刑法理論として現在依拠しようとしているのは、七〇年代半ばにアメリカで主張された「威嚇抑止刑論」ではなかろうか。この理論は「……人間は誘惑に弱いものであって(性悪説的人間観)、人間の性格など矯正できるものではないとして、実証主義犯罪学への不信感を示す」(『少年犯罪』184頁)ものだそうです。このような理論からなら、「性格異常」者はもはや矯正や保護の対象ですらなく、単に「不審者」として排除の対象とされるでしょう。

刑事政策が人間科学から切り離されることなど大したことじゃない、と思われるひともいるかもしれませんが、これは刑事法上は一大転機と言えるほど重大な事態です。今ぼくの手許にある『基礎から学ぶ刑事法 第3版』(井田良著、有斐閣、2005)の中にも、刑事政策の基本精神として人道主義、法治主義、国際主義と並んで「科学主義ないし合理主義」(74頁)が挙げられています。この内、人道主義、法治主義、科学・合理主義は、べッカリーア以来の遺産だそうです。科学はひとまず、憶測や仮定でひとを裁いてしまう危険から市民を守ります。歴史の現時点で、科学主義から切り離された刑事政策は、場当たり的な権力の濫用になる可能性のほうが大きいと言えます__と言いたいところですが、今の世の中、「科学」の名の下に政治にすり寄るエセ学者もウヨウヨいるからなあ。何ごとも見極めが肝心。

(あと少しだけ続きます。青木)
posted by aoki at 00:17| Comment(2) | TrackBack(12) | 青木 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最近の事件をみてると、刑罰の領域に「保安処分」が組み込まれてしまっている、という印象があります。もちろん法的に許されている保安処分はきわめて限定されているはずだから、あくまで刑罰という建前で行われることになるのですが。それにしても、法が人間科学から離脱しつつ社会を防衛するという発想って、なんかすごくないですか? 
Posted by 池田 at 2006年05月20日 13:11
まず刑罰と保安処分とのもともとの違いを考えると、犯罪行為に対する責任を問えれば刑罰、犯罪者の責任が問えない場合の再犯防止策が保安処分ということになると思う。犯罪者の責任が問えないというのは、精神障害や薬物中毒の場合を考えればわかるように、基本的に医学や精神医学などの判断が必要で、刑法に触れる犯罪者の場合は従来は「精神保健福祉法」で精神医療の領域、つまり行政の領域に委ねられたのだけど、平成17年施行の「心神喪失者等医療観察法」によって司法も介入するようになりました。

ぼくがなんとなく違和感を感じるのは、
「政治が人格を放棄する」→「犯罪者の人格的責任を問うのがめんどっちい」→「もう科学に尋ねる必要もない」
といういびつな流れで事が進んでいる気がすること。これだと、刑罰も保安処分もごっちゃになるよね。それに原則的には誰でも当てはまっちゃう。政治は市民全員を狂人扱いしてると言えるかも。では大学当局は学生をどう見てるのかしら。うーん、この問題はもう少し考えてみるね。
Posted by 青木純一 at 2006年05月20日 17:20
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