2006年05月05日

法の外(1)

(5月4日の記事を少し書き直しました。青木)

このブログの中で池田さんも書いているし、松沢呉一さんのメルマガでも指摘されていたのですが、最近のデモに対する警備って不必要なまでに厳重で、デモの人数と同じくらいの警察官がつくんですね。これじゃ、みんなビビるよな。早稲田の時の様子は、不当逮捕抗議のHPに掲載されている写真から判断して下さい。

オウム真理教事件以前は「公安廃止論」まであったのに、なんでこんな世の中になっちゃったかって考えると、オウム事件の時に弁護士や法律家たちが社会風潮に流されて、違法捜査の問題とかをおざなりにしたツケがまわってきている気がします。このブログを読まれている方には、オウム事件当時の吉本隆明さんの発言を読み直すことをお勧めします。この時期に弁護士たちが間違ったかじ取りをしたことが、はっきり指摘されています。実際、裁判の経過を読んでも、今や弁護士も司法も機能不全という感じです。

その上、日本のような議院内閣制の国ではもともと立法が行政と癒着しやすい。ヘボな法案がひょこひょこ出てくる現状は、立法府が正常に機能してない証拠でしょう。現在、日本では三権分立がきちんと機能していません。実感としてそう感じます。民主主義の再構築を考えるのならば、まずここをしっかりさせなきゃいけないはず。評判の悪い「戦後民主主義的精神」といった観念上の問題以前の、リアル・ポリティックにおける緊急な課題です。数年後に始まるであろう裁判員制度が今後の民主主義のあり方にどう作用してゆくか、実はこれも気になってます。

今の日本では行政権の突出がえらく際立っている、とぼくは感じます。「国家」という言葉から普通のひと(ぼくもそうです)がイメージするのは、ほとんど行政の権力ばかりじゃないかしら。行政権が特異に突出した国家の代表例は、ファシズム国家です。ファシズム国家とは、基本的には、社会を常時「臨戦態勢」に置く国家です。そうすることで、行政権の優位がぎりぎりまで保たれます。しかし「臨戦態勢」を正当化し維持するためには、国外および国内に強い搾取・差別・侵略の構造を作り出すことを必要とします。第二次大戦当時は、重工業の独占支配と民族差別的なイデオロギーが核になったけど、現在なら当然、情報産業の支配と情報操作がひとつの大きな核になるはずです。それに、こういう行政的な権力の突出という傾向は、別に国家規模だけで始まるわけではなく、学校や企業、メディアでの表現の規制や「自粛」(日本の大手メディアの得意技)からも始まります。半ばマジな皮肉を言わせてもらえば、早稲田大学も自分で身勝手な「臨戦態勢」の幻想を作り出して、下手くそな情報戦術を使いながら、「不審者」の排除などという差別構造を生み出したと言えます。まあ、戦うべき相手を思いっきり間違ってるんですけどね。

今回の早稲田の不当逮捕事件への抗議の連帯メッセージの中に、コーネル大学の酒井直樹さんから寄せられた次の一文があります。

「日本におけるネオリベラルな改革と全体主義的趨勢を、いまアメリカ合州国で進行している全体主義的改革とともに拒絶することは絶対に必要なことです。アメリカ合州国における大学の自由への抑圧が1930年代の日本のそれと不気味な類似を示していること、このことへの危惧を私は数多くの講演において表明しています。」

海外からクールな視線で見れば、今回の早稲田の騒動も含めて、日本の昨今の趨勢が「全体主義的」、すなわちファシズム的であることがはっきりわかるのでしょう。早稲田の教員は、この酒井さんの文章をどれだけ理解してるのか。今からでも文学部の内部から自浄作用が起これば、大学の存在意義が大きく変わるんだけど、期待するだけヤボなのかな。早稲田も大手メディアだしね。でも、まず自分らで何とかしてみろ、とだけは言っておくぞ。

で、ひとまず話を日本の国内に限定しますが、たとえ幻想的であれ「臨戦態勢」を作り上げるためには「差別」が必要で、その際、差別する側から差別される側に向かうベクトルで「法の外」という幻想、つまり法の庇護から排除するという共同観念が侵入してきます。ぼくが「不審者」「犯罪予備軍」「ニート」といった言葉が流布する背景の奥に感じるニュアンスは、この「法の外」という脅迫的かつ強迫的な(実はそれだけじゃないんだけど)幻想領域なわけです。じゃあ、現在における「臨戦態勢」とは何か。そこから生じる差別の行方はどこに向かうのか。長くなりましたが、やっとここから本論に入ります。ぼくの生活実感を出発点にして、書いてゆくつもりです。
posted by aoki at 13:16| Comment(5) | TrackBack(1) | 青木 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 裁判員制度には徹底的に批判を加えております。

 裁判員制度というのはこの国の民主政治のあり方について重大な問題を含んでいます。国会は共産・社民を含めて全会一致、司法権力の裁判官も法案作成に関与、日弁連も賛成、メディアは一切批判的な評論をしないという、日本のありとあらゆる権力がオール与党化した「日本国憲法史上最悪の法律」です。そもそも、裁判員制度の決定経緯からして「三権結託」ともいえるものですからとんでもないと思います
Posted by 高野 善通 at 2006年05月05日 21:53
コメント、ありがとうございます。

裁判員制度は、ぼくにとって本当によくわからない代物なのですが、高野さんのブログを読んで、問題点がはっきり見えてきた感じがします。決定経緯も異様ですし、「回避権がない」という法律内部の問題も異常に思えます。

今後も裁判員制度に関する意見や情報を発信し続けて頂ければ、ぼくのような素人にも大いに参考になります。
Posted by 青木純一 at 2006年05月06日 00:58
いつもどうも。

「果たしてデモにどれだけの効果があるのか」という疑問は私の中にもあるのですが、デモになんら効果がなくとも、デモをする自由は確保しなければならないという発想さえも奪われてしまっている人が多いことにいよいよ絶望します。

その目的になんら同意できなくとも、機動隊がデモ隊を囲んで見えなくしているのは異常であり、それらの壁にさえも税金から手当が支払われていることにどうして怒りを抱かなければならないのか。そこから説明しなければならない時代です。

「警察が税金の無駄遣いをしているのはデモをやるヤツらが悪い」という発想さえ出てきかねないですからね。

それでも「過剰警備に税金がこれだけ使われている」という数字を見ると腹が立つ人もいましょうから、ちゃんと計算するといいかも。東京都に申請すると、数字が公開されるのでしょうかね。
Posted by 松沢呉一 at 2006年05月10日 19:15
>松沢さま

どうも、ご投稿ありがとうございます。
いやまったくそのとおりです。かりに、デモ自体に効果がなかったり、あるいは方法論的にまちがっていたとしても、それと今回の弾圧とはまったく次元の違う話ですよね。もしデモの主張がトンチンカンだったとしても、今回のようなことが、それで正当化されるわけではない。このことは、早稲田大学のビラまき逮捕事件や法政大学の29人逮捕事件についても言えると思います。日本という場所にいる人間は、この国の法律の当事者であることから逃げることはではない。その法律と権力の「意志」がぴたりと一致してしまったらとんでもないことになるはずです。自業自得説をとなえて、これらの弾圧を合理化しようとしている人は、自分で自分の首を絞めているはずなんですが……。でも学生なんかにこういった話をすると、あっさりと理解してくれる(よく考えてみると単純な話ですから)ので、やはり散文的な説明が一番だと思いました。個人的な印象としては「デモ自体が非合法ではないんですよ」というような話から入る必要があると感じてます。

税金の話ですが、たしかにあれだけの人員を導入するのに、いったいいくらかかるのか気になります。それとも何日か以内に予算を使い切らないと、減らされてしまったりするんでしょうか? 

>「警察が税金の無駄遣いをしているのはデモをやるヤツらが悪い」
これも本当に言われそうで笑えないです……。いやはや日本に住んでいたはずが、気がつくと「ガリバー旅行記」のガリバー君になった気分です。

13日のジュンク堂での刊行イベントですが、あいにく仕事が入っているので、行けるとしても遅刻は確実です。それにしてもイベントの紹介文「名うての風俗ライター(現在廃業)とJUNKの2人が」って、この「JUNKの2人」という括り方がすごいです(笑)
Posted by 池田雄一 at 2006年05月10日 23:35
松沢さん、池田さん、コメントありがとうございます。

「あなたの主張に私は同意できないが、あなたがそれを主張する権利を私は命を賭けてでも守る」__確かヴォルテールにこんな言葉があったと記憶してますが、早稲田と法政の門前にこの言葉を掲げてみろ、と言いたいです。あと、できたら都庁の門前にも。

「警察が税金の無駄遣いをしているのはデモをやるヤツらが悪い」__いや、本当にこういう発想を無意識の内に社会が受け入れてしまうよう、政治は市民を誘導しつつありますね。こわいよう。

関係ないけど、「JUNK」はすがさんだけを指すんじゃないかな。違うかな。
Posted by 青木純一 at 2006年05月11日 01:52
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Tracked: 2006-05-05 20:21
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